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「行きたくない」と言った人が、笑顔になるまで ―自立支援って、なんだろう―

介護 ケアマネジャー

元気に年齢を重ねること

先日、病院に90代のおばあさんが来院されました。
少しよぼよぼと、家族は同行していましたが、ご自分の足で歩いて来院されていました。
その姿を見て、年齢を重ねる中での自立状況って病気の影響も大きく、人それぞれだなあとしみじみ思いました。

ケアマネ時代に担当した60代の利用者さん

ケアマネ時代に担当していた利用者さん。前任のケアマネから引き継いだケースでした。
その方は、当時まだ60代。お一人暮らし。脳梗塞の後遺症で半身不全麻痺が残り、家事など生活面での支援が必要な方でした。
一日2回の訪問介護が入り、その生活が成り立っている——そんな状態でした。

基本は寝たり起きたりの毎日。いつも過ごす部屋に、ヘルパーさんが食事を準備しておけば、そこで寝起きしている本人が自分で食べて、その日の2度目のヘルパー訪問時に片づける。そして、次の食事を準備しておく。これがサービスのパターンです。
日常生活動作は、本人のペースで出来ているけど、家事等は出来ない為全て支援をしているという状態でした。

担当当初は、どんな生活をされているのかがわからなかった為、前任ケアマネからのサービスを踏襲していたのですが、その人の状況がわかればわかるほど、現状のサービスでは「もったいないのでは」と思うようになりました。
まだ60代とかなり若い。これからまだまだ続く人生。外に出る機会があれば、もっと世界が広がり身体的にも精神的にも向上するだろうに。そう考え、デイサービスをすすめました。

脳梗塞の後遺症で考えもまとまりづらかったためか、ニコニコして口数は少ない方でした。
しかし、そのデイサービスをすすめた時は、
「いやだ。行きたくない」かたくなで明確な拒否でした。

拒否する理由は、はっきりとしたものは聞き出せませんでした。うまく言えなかったのかもしれません。
でも、この方の自立促進には外出機会が必要と信じ、定期訪問する度に、それはもうしつこく(笑)、お誘いしました。
その後、訪問介護事業所を変更しないといけないなど、サービスの見直し調整が必要なタイミングも重なり、とうとう、デイサービスのお試し利用から、デイサービス導入ということになったのでした。

デイサービスが始まりだすと、どうでしょう。あんなにはっきりと拒否していたのに、ご本人から『楽しい』という言葉が出てくるようになってきました。

表情が、明らかに変わりました。そして、通うたびに、どんどん身ぎれいになっていかれました。
髪を整え、顔も洗われ、歯も磨かれ、表情は更ににこやかに。
あの変化は、今でも忘れられません。


要望とニーズは違う

もし、利用者さんの「要望」だけを聞いていたら——ご本人は「行きたくない」とおっしゃっており、彼女が口にした要望は、「家にいたい」でしたから、きっと私は、訪問介護による生活支援を継続していたと思うのです。
けれど、その奥にある本当のニーズは、人と関わること、精神的な自立を促すきっかけだったのではないかと感じています。
利用者さん自身も気づいていないニーズの抽出をすることの大切さを、このとき、身をもって学ぶことができました。

介護保険の理念「自立支援」

介護保険の理念の中心には、「自立支援」という考え方があります。
介護保険法の第一条にも、尊厳を保持し、その人の能力に応じて自立した日常生活を営めるように、という趣旨が掲げられています。
「自立」は、身体的に何でも一人でできることだけを指すわけではない、ということ。
意欲を持って、社会とつながり、その人らしく生きていく。それもまた、立派な自立のかたち。そう読み直せるようになったのは、この経験があったからです。

訪問介護で「今の生活を維持する」。それはもちろん、大切な支援でした。脳梗塞発症当初は、独居の本人を支えるにはそのサービスが最適だったのだと思われます。
なんでもかんでも外に連れ出せばいい、という単純な話でもありません。
ご本人の意思は、何よりも尊重されるべきもの。
もっと丁寧なやり方もあったかもしれない、と思う部分もあります。
それでも——あのときの利用者さんの変化を思い出すと、引き下がらなくて、よかった。心からそう思うのです。

介護や医療の現場にいると、目の前の「要望」に応えることで、精一杯になってしまったり、その「要望」に、応えることも困難な時があります。
そんな中で、「この人の本当のニーズは、なんだろう?」という問い直す視点を持てることこそ、私たち専門職の腕の見せどころなのかもしれません。

人間としての尊厳維持に繋がる「自立」を保つこと

先日来院された90代のおばあちゃん。そのおばあちゃんも、話を聞けば、実は現状は望んだ形ではないと言われるかもしれません。
しかし、付き添いはあっても、自分の足で自分の意思で出かけられる、出かけた先で色々な事を選択できる、人間としての尊厳が維持できている自立状況が90代となっても保たれている。
素晴らしいと思いました。
自立維持、機能維持って奥が深い、色々と考えさせてくれた、ある日の患者さんとの出逢いでした。

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